A.D. 30

Walk with Jesus to Jerusalem.

A.D. 30

「A.D. 30」は新約聖書(福音書)がテーマのソリティアゲームである。プレイヤーは、イエスの伝道活動をヨルダン川の受洗からエルサレム入城までたどり、聖書に記された展開と同じとなるような最良の結果を目指す。

概要

ボックス

「A.D. 30(紀元30年)」は新約聖書の福音書をテーマにしたソリティアボードゲームである。福音書とは、一般には新約聖書の巻頭から4書(マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝)を指す。いずれの福音書にもイエスの生涯や伝道活動が記録されており、それが伝記物語風につづられている。

福音書においてイエスが置かれていた環境を、歴史シミュレーションウォーゲーム的な手法で抽象化とモデル化を施し、それをゲームとして再構築した作品が「A.D. 30」である。

プレイヤーは、あたかも福音書の登場人物であるかのように振る舞い、それによってイエスの公生涯の一部を擬似的に追体験することができる。

イベントカード

イベントカード

イベントカードが「A.D. 30」のエンジン部分だ。各イベントカードには、聖書に記された有名なエピソードにちなんだタイトル(カード名)と聖書から引用されたフレーバーテキストが印刷されている。

ターン開始時、プレイヤーはイベントカードの山札から1枚引いてその指示に従う。イベントカードは全部で25枚あり、25枚目には必ず「エルサレム入城」が置かれる。そして、これが引かれると直ちにゲームは終了する(つまり最大で24ターン)。

なお、イベントカードでゲームに関わる部分には、ほぼ言語依存がない。

ゲームボード

イエスのマーカーは、スタートとなる「ヨルダン川」のマスから、ゴールである「エルサレム」のマスまで移動を行う。この2つのマスに間には、砂漠(荒れ野)、ガリラヤ、ベタニア、ゲツセマネのマスがある。イエスマーカーは、イベントカードの指示でのみエルサレムに近づくように移動する。エルサレムに入ってターンを終えるとゲームも終わってしまう。

ゲームボード

本作の目的のひとつは、イエスをエルサレムに到達させることではあるが、実はそれだけではない。イエスがエルサレムに入った時点で「名声点」が不足していたり、ユダがエルサレムに伴っていなかったりすると、ゲーム的には敗北となってしまうのだ。

だが、イエスの移動はカードで指定されるため、直接は止めることができない。ではどうするかといえば「流浪アクション(Wander)」を行うことで、現在の地域からひとつ戻す(エルサレムから遠ざける)試みが行えるようになっている。「試み」と書いたのは、それを行う場合はダイスによる判定が行われるためだ。

誘惑と信心

イエスは「信心(Piety)」というパラメータを持ち、これは誘惑/信心(Temptation/Piety)トラックで管理される。

誘惑/信心トラック

ゲーム中、イエスは多くの誘惑を受ける。これに耐えられず信心が0になってしまうとゲームオーバーとなり、世界は暗黒に閉ざされる(とルールに書かれている)。高い信心を維持していると、幾つかのダイス判定で有利にもなる。何もしなければ信心は下がる一方だが、「祈りアクション(Pray)」で回復することができる。現在の信心が低いほど回復しやすくなっている。

指導者たち

イエスの教えは、ユダヤ教(イエスは生涯にわたってユダヤ教徒だった)の常識を覆すものだったため、その保守層から執ように非難を浴びた。福音書には、イエスと対立するユダヤ教徒や統治者との論戦が数多く記されている。それらをいずれも切り抜けたイエスではあったが、彼らの憎悪は日増しに高まり続け、ついには彼の殺害を決意させるにまで至るのである。

指導者マーカー

本作ではこのような状況を抽象的に表現している。イエスの受難には必ず登場するキーパーソンの3人、すなわち大祭司カイアファ、提督ピラト、そしてヘロデ(王)が「指導者マーカー」として用意され、それらは「指導者トラック」上で管理される。

指導者トラック

3枚の指導者マーカーは、主にイベントカードの指示によって、指導者トラック上の初期位置からエルサレムまでを移動する。これはイエスのように、実際に指導者たちがエルサレムへ歩みを進めているわけではなく、彼らのイエスに対する危機意識の高さを表す。エルサレムに近い指導者ほど、イエスに対して高い危機感を抱いているということだ。

指導者マーカーが「Assert in Jerusalem(エルサレムで逮捕)」と記されたマスに到達し、そのままターンが終了してしまうと、実際にイエスは逮捕され、ゲームは強制的に終了する。

イベントカードの総枚数は決まっていて、それらのほとんどに指導者マーカーを移動させる指示がある。事態を放置すれば、イエスがエルサレムに到達する前に逮捕されてしまうだろう。それを食い止める方法は2つある。

ひとつは、「脅威を鎮めるアクション(Reduce Threat)」によって指導者たちの危機感を下げる方法だ。ただし、これはダイスで成否判定を行わなければならない。またその成功率は、指導者ごとに異なっている。指導者によっては、かたくなに態度を変えない者もいるのだ。また「奇跡を起こすアクション(Perform Miracle)」を事前に行っておくことで、脅威を鎮めるアクションの判定で有利になる効果を得られるかもしれない。

もうひとつはイエスに選ばれた使徒たちに対策を委ねることだ。本作には十二使徒全員が登場するので、まずはそれについて説明しよう。

十二使徒

「A.D. 30」には12枚の使徒マーカーがある。当初、これらは信者マーカー(Follower)2枚とともに裏向きにしてシャッフルしておく。「召命アクション(Recruit)」か「伝道アクション(Teach)」を実施することで、ランダムにマーカーを引いて使徒を集めることができる。使徒は名声点(勝利得点)にもなるので有益だが、信者マーカーは「はずれ」だ。これを引いたら単にアクションが失われる。

使徒マーカー

「召命アクション」は使徒マーカーをランダムに2枚引いて、そのうちの1枚を選べる。これは使徒が集めやすいアクションだが、イエスがヨルダン川(ゲーム開始時の地点)にいるときにしか実施できない。「伝道アクション」は、イエスがガリラヤかベタニアにいれば実施可能だが、アクションごとに使徒マーカーをランダムに1枚ずつしか引けない。

イスカリオテのユダ

使徒の中で特別に扱われるのがこのユダ(イスカリオテのユダ)である。通常、選んだ使徒はゲームボードの「選ばれた使徒ボックス(Recruited Apostles)」で管理される。しかしユダは専用の「ユダトラック」に置かれる。

ユダトラック

ゲームに登場後のユダマーカーは、指導者マーカーのような扱いとなり、イベントカードにユダのシンボルがあると、ユダトラックをエルサレム方向へ移動する。ユダがエルサレムに到達することで、彼の「裏切り」の準備が完了する。

「A.D. 30」において、このユダの裏切りは勝利のために極めて重要な要素になっている。特にそのタイミングが重要だ。他の指導者マーカーがエルサレムに到達しておらず、ユダだけそこにいる状態は、ユダの言葉に誰も耳を傾けなかったことになり、ユダはそこでゲームから除外されてしまう。

前述の通り、本作の究極的な目的は、聖書に記載された展開と同じ結果となることにある。つまり、勝利のためにはユダの裏切りは不可欠なのだ。ユダはイベントカードで移動し、指導者マーカーとは異なって、ゲーム中のどの時点で登場するかはわからない。ユダを上手にコントロールすることは、「A.D. 30」で勝利を得る上での重要な戦略のひとつになっている。

使徒の務め

使徒マーカーを指導者マーカーへ

ユダを除いた11人の使徒マーカーは、「使徒を送るアクション(Send Apostle)」で、指導者トラックの指導者マーカー上に置くことができる。

このような使徒マーカーは、イベントカードで指導者が移動するタイミングで、それを阻止する試みが行える。行うなら、ダイスで成否判定しなければならない。

もし、指導者の移動阻止に失敗した場合、使徒はその指導者マーカー上から除去されるばかりでなく、指導者に殺され殉教する可能性がわずかにある。使徒たちにとっては命がけの阻止行動なのだ。

イベントカードでエルサレムへ移動するのはユダも同じだが、彼はこの方法で移動を阻止することはできない。ユダは、「脅威を鎮めるアクション」でアクションを消費し、ダイス判定を成功させて戻すしかない(その成功率はどの指導者より高いのがせめてもの救いである)。

マルチエンディング

ゲーム終了後、ルールに規定された名声点が計算された結果と、それぞれの指導者マーカーとユダマーカーがエルサレムに到達しているかどうかで、このゲームが14のエンドパターンのどれであるかを判定する。大きく分類して勝利の評価は、大敗北・敗北・勝利・大勝利の4段階である。しかし前述したように、究極的な目的は聖書と同じ結果になることであり、そのトゥルーエンドはただひとつしかない。

とはいえ、私の経験では、本作の難易度はそれほど高くはないように思えた。私は本作を10回ほどプレイして、最初の2度は敗北したが、それ以後は、ほとんどのゲームで少なくとも「勝利」を得ている。もしあなたがこのゲームをプレイして簡単だと感じたなら、選択ルールには難易度を上げるためのルールが2つ用意されているので、それを採用すればよい(逆に難易度を下げるルールもある)。

聖書をテーマにしたゲームであるということ

聖書そのものをテーマとしたボードゲームやカードゲームは、数としては多くはないが、実はそれほど珍しいものでもない。ただそれらは、ともすると護教的な方向に偏りすぎて退屈なものであったり、あるいは宗教そのものをあざけたりするようなゲームになりがちである。

「A.D. 30」は、聖書に正面から取り組みつつも、その枠にとらわれることもなく、歴史的な可能性を自由に追い求めた構成になっている。私は毎日欠かさず聖書を読むプロテスタントのクリスチャンだが、この「A.D. 30」を心ゆくまで楽しむことができた。

もし、あなたがクリスチャンなら本作をおすすめしたい気持ちではある。ただし注意してほしいのは、本作には「聖書とは異なる結果となる」内容を多く含んでいるという点だ。所属する教派の教会的・教理的信条によっては、それを不快と思う人もいるかもしれない。

また「A.D. 30」をプレイするに当たっては、やはり聖書の知識はある程度あった方が楽しめると思う。もちろん、これはゲームである以上、ルールブックを読みさえすれば、とりあえずプレイして勝利を目指すことは可能である。

とはいえ、本作のゲームシステムや要素の多くは、福音書の内容に深く関連している点には十分に留意されたい。多くのユーロゲームは「テーマ」を持つが、本作はそれよりも、福音書とゲームとの関係がより緊密な構成となっており、また聖書に慣れ親しんでいる人たちにとって自明のことは特に説明されていないからである。

日本語ルールとカードラベル(シール)

国内で「A.D. 30」は、ごく一部のショップで販売されている。そのいずれも日本語ルールが添付されていないようだったので、発売元の Victory Point Games の許諾を得た上で、和訳したルールブックを BoardGameGeek で公開した。

和訳ルール
[Japanese Rulebook | A.D. 30 | BoardGameGeek]
http://www.boardgamegeek.com/filepage/101339/japanese-rulebook

またイベントカードのタイトル(カード名)と聖書からの引用文であるフレーバーテキストも日本語化したラベル(フリーカット仕様)も作ったので、こちらも併せてBGGで公開した。

イベントカードは、ゲームに関わる部分に言語依存がないため、プレイするにあたってこの日本語ラベルは必ずしも必要なものではないが、特に聖書に慣れ親しんでいる人にとって、これを貼った方が雰囲気が抜群に良くなるのでおすすめである。

[Japanese Labels for Event Cards | A.D. 30 | BoardGameGeek]
http://www.boardgamegeek.com/filepage/101340/japanese-labels-for-event-cards

なお、上記のいずれも、聖書に関わる用語の訳語は「聖書 新共同訳」に準拠した。新共同訳聖書の引用規約との兼ね合いなど諸事情で、オリジナルのカードに書かれた英文テキストに比べて、引用した箇所・引用先の表記・タイトルが少しばかり異なっていることがあるので注意してほしい(くり返しになるが、そのことはゲームには影響しない)。ラベルにはカード番号が記されているので、貼付は機械的に作業できるようにしてある。

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